ハワイ島ヒロの半神マウイ&女神ヒナの神話

ハワイ島ヒロの半神マウイ&女神ヒナの神話

ハワイの歴史・文化に詳しいライター・森出じゅんさんのコラム第47回。今回はハワイ島ヒロに伝わる半神マウイと、その母の女神ヒナにまつわる神話スポットについてお届け。

更新日:2025.10.31

森出じゅんのハワイ歴史&神話散歩

半神マウイと女神ヒナの
軌跡が色濃く残る街

Aloha! ホノルル在住の森出じゅんです。

ハワイ文化に焦点を当て、ちょっと意外なハワイの横顔を紹介するこのコラム、今回は久方ぶりにハワイ島がテーマ。島東部のヒロに伝わる半神マウイと、その母の女神ヒナにまつわる神話スポットの数々を紹介しましょう。

まず2人の基礎知識から。半神マウイといえば気が優しくて力持ち、そして人間のために数々の偉業を成し遂げた英雄として知られます。例を挙げれば、大昔は低く垂れこめていた空を押しあげたり、火の秘密を人間に伝えたり。ギリシャ神話のプロメテウス(天国から火を盗んで人間に与え、責め苦を受けた)やヘラクレス(罪を償うために12の偉業を成し遂げた)がミックスされたような存在といえるでしょう。

一方、母のヒナはたおやかな月の女神で、月に移り住む前は人間界に住んでいたとされます。実は息子のマウイも母ヒナも、タヒチやマルケサス諸島などポリネシアの島々に共通の神。ハワイアンの祖先がハワイに移ってきた際、2人の神話もまたハワイ各地にもたらされました。そしてハワイ島ヒロは、ハワイのなかでもマウイ&ヒナ神話の色濃い土地の1つなのです。

 

ワイルク川沿いに点在する
半神マウイの活劇の跡

たとえばヒロ郊外の景勝地、レインボー滝裏の洞窟は、かつて女神ヒナの住居だったとされる場所。ヒナは滝壺から伸びるワイルク川の畔でカパ布(樹皮から作るいわゆる不燃布)作りに励み、平穏な日々を楽しんでいたそうです。ところが美しいヒナに目をつけたのが、滝の上に住む醜い大トカゲでした。

滝裏の洞窟には、かつて女神ヒナが住んでいたとされる

大とかげはヒナにちょっかいを出し続けましたが、全く相手にされないことに憤ったのでしょう。ワイルク川を大きな岩で堰き止め、ヒナの住む洞窟を水攻めにしてやろうと企てました。そうして洞窟にどんどん水が流れこみ、あやうく溺れそうになったヒナ。思わず悲鳴をあげると、それをマウイ島で聞きつけたのが孝行息子のマウイでした。

マウイは魔法のカヌーでアッという間にヒロに到着し、ワイルク川の河口でカヌーを降りると母のもとへ。マウイが乗り捨てた魔法のカヌーは後に岩と化し、今でも河口近くに残されています。この「マウイのカヌー」は、ヒロ・ダウンタウンのワイルク川橋から間近。ヒナにまつわるもう1つの神話の舞台でもあるので、後ほどまた改めてご紹介しましょう。

 

半神マウイのカヌー。マウイはディズニー映画「モアナと伝説の海」でもお馴染み

ダウンタウンのケアヴェ通りにかかるワイルク川橋

 

溶岩流で沸きたったワイルク川。
今なお川にはその名残が

その後のマウイの行動も、迅速でした! ワイルク川を2.6キロほど遡ってレインボー滝(現ワイルク川州立公園内)に駆けつけると、川を堰き止めていた巨岩を石斧で破壊。滝裏の洞窟で溺れそうになっていた母を救済し、邪悪な大トカゲ退治に乗り出しました。

 

レインボー滝のあるワイルク川州立公園の看板。マウイと大トカゲの戦いの顛末が記されている

大トカゲは川底に隠れていましたがマウイに追跡され、滝上からワイルク川上流へと逃げていきました。さらに大トカゲを追いつめようと、神通力で川に溶岩流を呼びこんだマウイ。たちまち川が沸きたち、大トカゲはついに焼死してしまったということです。

(この時、マウイが火山の女神ペレに助けを求めたので、ペレが火山地帯から溶岩流を送ったとする言い伝えもあります)

その後、川の水はすぐに冷却された一方で、水が沸きたった際に出現した無数の泡は今もそのまま。そのため一帯は、今もボイリングポット(沸きたつ壺)との名で知られています。

 

かつて溶岩流で沸きたった? ワイルク川

このボイリングポットとレインボー滝周辺は、それぞれが州立公園として整備されています(ボイリングポッツ州立公園&ワイルク川州立公園)。2つの公園は距離にして2.4キロほど。ぜひ一緒に訪れ、マウイの活劇の跡を楽しんでみてください。

 

タヒチの神官パアオと
女神ヒナの物語もここに

最後にもう一度、ワイルク川河口の「マウイのカヌー」に話を戻しましょう。前述の通り、ここには女神ヒナにまつわる別途の神話が残されています。マウイが大トカゲを退治してからずいぶん経ったある日のこと。タヒチからやって来たパアオという男が、カヌー跡に住居を建てて住み着きました。その頃、すでにカヌーは岩と化していましたが、カヌーだった岩ですからごく細長く、住居として快適なようには見えませんでした。

しかも岩はずいぶん平たいので、パアオの住居を見たヒナは心配になり、忠告しました。「そんなところに住んでいたら、危ないですよ。川の水位が上がったらすぐ流されてしまいますよ」。ところが、パアオは自信たっぷりに答えました。「岩は絶対に水にさらされまい」。実はそのパアオはただ者ではなく、大変パワフルな神官でした! 強力な神通力が自然に打ち勝ったのでしょう。岩が水没することはなく、今なお水上にその姿をとどめています。

ちなみにこの時、パアオが住居の周りに植えたのが、タヒチから携えてきたピリの草でした。ピリは茅の一種で、昔のハワイで茅葺き屋根造りに多用された植物。そのピリを初めてハワイにもたらしたのが、パアオとか。今もカヌー跡ではピリが風に揺れています。

 

なおヒロのマウイ神話の舞台としてはもう1つ、ヒロ湾のココナッツアイランドがあります。こちらについては「ハワイ島ヒロの聖なる小島、ココナッツアイランド」で紹介していますので、あわせてご覧ください! 神話の里ヒロを、ぜひゆっくり訪れてみてくださいね。

 


 

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森出じゅん/JUN MORIDE プロフィール

オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動するかたわら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。2012年からハワイ州観光局の文化啓蒙プログラム「アロハプログラム」講師。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニーマガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景ーハワイの人々が愛する100の神話」(パイインターナショナル刊)がある。

☆ブログ「森出じゅんのハワイ生活」>>

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