火の山、キラウエア山頂の神話と伝説

火の山、キラウエア山頂の神話と伝説

ハワイの歴史・文化に詳しいライター・森出じゅんさんのコラム第35回。今回はキラウエア山頂の神話・伝説についてのお話です。

公開日:2023.09.29

森出じゅんのハワイ歴史&神話散歩

火山の女神ペレ一族が住むハレマウマウ火口。
ハレマウマウと呼ばれるそのわけは?

Aloha! ホノルル在住の森出じゅんです。

ハワイ文化に焦点を当て、ちょっと意外なハワイの横顔を紹介するこのコラム、今回はつい先日、3カ月ぶりの噴火がニュースとなったハワイ島キラウエア火山の神話・伝説がテーマ。キラウエア火山については第14回「ハワイ島の山々の神話・伝説」でダイジェスト版をお届けしましたが、まさに「神の領域」であるキラウエア火山の神話は、実に多彩! そこで今回は特にキラウエア山頂&その地名にまつわる神話に焦点をあて、さらにディープな逸話をシェアしていきましょう。

まず山頂のカルデラの名ですが、英名はキラウエアカルデラ、ハワイ語名はカルアペレ。カルアペレには、「ペレの穴、窪み」との意味があります。ペレとはもちろん、火山の女神ペレのことですね。「ハワイ島の山々の神話・伝説」でふれた通り、タヒチからやってきた火山の女神ペレ一族が住みついたのが、キラウエア火山だったからです。

2018年の噴火で広がったハレマウマウ火口

なかでもペレが終の棲家と定めたのが、カルデラ内の火口の1つ、ハレマウマウ火口。日頃から不気味な噴煙のあがるハレマウマウは、キラウエア観光のハイライト(先日の噴火が起きたのもここ)。ハレマウマウというその地名は、「アマウマウの家」を意味しています。アマウマウは、ハワイの火山地帯や熱帯雨林に群生する大きなシダの名。地名の由来についてはいくつかの言い伝えがあり、1つは女神ペレと愛憎関係にあった半神カマプアアに関わる物語です。

カマプアアは野ブタの化身で、燃える目を持った大きな野ブタとして、またはハンサムで長身の酋長として人前に現れるとか。美しいペレと恋に落ちたものの、性格の激しい2人が長らく平穏に暮らせるわけはありません。ある日、ついにペレに焼き殺されそうになったカマプアア。自分のあらゆる化身を呼び寄せ、ペレを撃退しました。カマプアアの化身の1つがアマウマウで、こうしてキラウエア火山に呼び寄せられた後にハレマウマウ周辺で繁殖。そのため火口がハレマウマウと名付けられたということです。

半神カマプアアの化身、アマウマウ

アマウマウはほかにアマウ、マウマウ、プアアエフエフとも呼ばれ、そのうちプアアエフエフはずばり「赤褐色のブタ」を意味します。若いアマウマウが赤褐色をしていることからの命名のようです。

一方、ハレマウマウとは、カウアイ島からやって来たカフナ(神官)の名だとする物語もあります。キラウエア裾野のプナ地区の酋長、カハヴァリがペレを侮辱してペレに焼き殺されそうになり、命からがらカウアイ島に逃亡。やがて6人のパワフルなカフナを引き連れて、キラウエア火山に帰ってきました。ハレマウマウとは、そのうちの1人の名とか。カフナは今、ボルケーノハウス(ホテル)が建つ火口の縁にアマウマウで作った家を持っていたため、火口がハレマウマウと呼ばれるようになったそうです。

ボルケーノハウス前の展望台から眺めたハレマウマウ火口

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「泣きすさぶカフナ」との
地名にまつわる言い伝え2つ

ちなみにジャガー博物館(2018年の噴火のダメージにより閉館)がある一帯は、古くはウエーカフナ(泣きすさぶカフナ)と呼ばれ、こちらにもカフナにまつわる神話が2つ。1つは前述のカウアイ島のカフナの末路に関するもの。6人は結局、ペレに打ち負かされたので、そんな地名がついたといわれます。ペレ、強し!

2つめの説は、カフナはカフナでも、泣いたのはカウアイ島のカフナとは別のカフナだとするものです。ここに昔、旅人を家におびき入れては火口に突き落とす恐ろしいカフナが住んでいました。ある時、とうとう勇敢なハワイアンに退治されたカフナ。その邪悪なカフナにちなみ、「泣きすさぶカフナ」という地名が生まれたといわれています。

なおジャガー博物館は開館当時、「ウエーカフナ博物館」と呼ばれていたそうです。「泣きすさぶカフナ博物館」…ずいぶんユニークな名ですね。ジャガー博物館の閉鎖後、その前方にあった展望台も立ち入り禁止になっていますが、すぐ近くに新たな展望エリアがオープンしています。

ジャガー博物館近くに新たに造られた展望エリア

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蒸気の女神を祀る崖の縁まで
硫黄地帯をハイキング

ウエーカフナから少し離れたカルデラの縁には、盛大に蒸気が噴き出しているスポットも。蒸気を司る女神、クーカマーホヌイアーケアにちなむ聖地とされ、スポットはワヒネカプ(神聖な女性)と呼ばれています。火山国立公園のビジターセンター近くからその崖までを繋ぐ2キロほどの短いトレイルがあり、私も先日、歩いてきました。

トレイル周辺ではあちこちから蒸気が噴き出し、硫黄で変色した箇所も。荒涼とし、まさにこの世ならぬところといった印象です。土壌の柔らかい場所があり高温の水たまりに落ちて大火傷を負った人がいるため、一帯にはボードウォークが。ボードウォークが途切れ森のなかを歩く際には、オヒアレフアをはじめ火山地帯特有の植物を見つける楽しみもあります。

可憐なオヒアレフアの花

 

こうして硫黄臭のする平原を横断しカルデラの縁に到着すると、「ワヒネカプ」の崖からは盛大に蒸気が噴き出しており、圧巻。

蒸気の女神のためか、はたまた火山の女神のためでしょうか。崖の縁には供物も置かれ、神の存在をまざまざと感じるキラウエア体験となりました。

以上のように山頂付近に限定しても、神秘の物語にあふれる神の山、それがキラウエア火山です。カルデラの周囲を車で巡ることもできますし、1時間程度のハイキングで山の自然と神性を体感するのもオススメの過ごし方。山で1日を過ごすつもりで、ぜひゆっくり出かけてみてください。

 


 

さて、ここで嬉しいお知らせが1つ。2020年に出版した「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社刊)の重版が決まりました! 今回で第4刷となります。今回ご紹介した火山の女神ペレや野ブタの半神カマプアアについても章を設けて紹介していますので、合わせてご覧いただけると嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。

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森出じゅん/JUN MORIDE プロフィール

オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動するかたわら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。2012年からハワイ州観光局の文化啓蒙プログラム「アロハプログラム」講師。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニーマガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景ーハワイの人々が愛する100の神話」(パイインターナショナル刊)がある。

☆ブログ「森出じゅんのハワイ生活」>>

☆ハワイ州観光局アロハプログラム>>

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