王国初の仏教徒、メリー・フォスターの想いがこもる植物園
ハワイの歴史・文化に詳しいライター・森出じゅんさんのコラム第49回。今回はハワイ王族初の仏教徒メリー・フォスターの想いがこもるホノルルのフォスター植物園をご紹介。
更新日:2026.02.27
カメハメハ3世妃の所有地跡に
造られたホノルル最古の植物園Aloha! ホノルル在住の森出じゅんです。
ハワイ文化に焦点を当て、ちょっと意外なハワイの横顔を紹介するこのコラム、今回はホノルルのフォスター植物園をご紹介します。前回ご案内したリリウオカラニ植物園とは対を成すような関係にあり、リリウオカラニ植物園がハワイ原産植物の植物園なら、こちらは世界の熱帯植物を集めた植物園。
しかもこの植物園にも、ハワイ王国以来の奥深い歴史がたっぷり秘められています。まずはその成り立ちから話していきましょう。
フォスター植物園が広がる14エーカーは元々、カメハメハ3世の妻、カラマ王妃の所有地でした(ここまではリリウオカラニ植物園と同様ですね)。王妃は1853年、ドイツからやって来た若き医師、ウィリアム・ヒレブランド博士に土地の一部を貸与。ヒレブランド博士はハワイ随一の総合病院であるクイーンズ病院の外科部長であると同時に、植物学者でもありました。(島に有益な植物を探すなど)ハワイ王国政府の任務を受けて世界を回った際、南国から持ち帰った木々を家周辺に植え始めたのが全ての始まり。そのエキゾチックな庭が、フォスター植物園の前身となりました。

ヒレブランド博士が1850年代に植えた巨大なカポックの木
ヒレブランド博士は20年後に祖国に戻りましたが、熱帯の木々に溢れたその跡地を引き継いだのが、マウイ王族の血を引くメリー・フォスター。メリーはハワイ最後の女王、リリウオカラニの親しい友人でもありました。
「私は渓谷の上方を買うから、あなたもその下方の土地を買ったらいかが?」とリリウオカラニ女王が提言したのかどうかは不明ですが、結果的にはカラマ王妃の土地の上部をリリウオカラニ女王が。下部はメリーが買い取ることになり、今では2つのホノルル市営の植物園が造られています。前回ふれたようにリリウオカラニ女王がその土地をホノルル市に寄贈したのと同様、メリーも自分の土地をホノルル市に遺したからです。

ヒレブランド博士やメリー・フォスターが暮らした敷地の上部には今、ガゼボなども
お釈迦様ゆかりの
菩提樹が育つわけこのフォスター植物園は、ホノルル市民の台所&グルメスポットでもあるチャイナタウンのすぐ山側。ホノルルの行政区からも徒歩圏にあるとは思えない静けさに囲まれ、その敷地は、(大袈裟ではなく)世にも珍しい熱帯植物であふれています。どちらかというと鮮やかな花々というより、熱帯の木々がコレクションの中心。セルフガイド用に21種の木々を配した地図がもらえますが、それ以外にも見るべき植物が五万とあります。

ハワイ原産のヤシをはじめ世界のヤシが集まっている
なので地図を見ながら回るというより、(時折り地図を確認しながら)自由に回るのが私流の楽しみ方。お目当ての植物を探す代わりに、世界の珍しい木々に囲まれたその空間をそぞろ歩くのがおすすめです。多くの木々に名札が付けられていますが、ハワイの植物にまつわるガイドブックが手元にあると、なお楽しいでしょう(併設のギフトショップでも購入できます)。
とは言いつつも植物園の目玉を少しだけ紹介すると…。まず入口近くに立つ菩提樹は、必見。紀元前3世紀、その下でお釈迦様が悟りを開いたとされるインド・ブッダガヤの菩提樹の枝を挿し木したもので(1913年)、ここにもユニークな背景があります。

1913年に挿し木された菩提樹が今は大きく成長
実はメリー・フォスターはハワイ王族として初めて、仏教を信奉した女性でした。ハワイを訪れていたスリランカ人僧侶と知り合い、そのスリランカでの活動を支援するようになったメリー。布教活動を財政的に支援したのに加え、彼の地で病院も設立しています。メリー・フォスターはハワイでも仏教を支援し、ハワイ初の仏教寺院であるヌウアヌの本派本願寺の土地を提供したのもメリーでした。そんな関係から贈られたブッダガヤの菩提樹の子孫が、植物園で元気に育っているというわけです。

植物園ゆかりの歴史上の人物を記した案内板も
そのほか、アフリカ原産のバオバブや、まるで大砲の玉のような実が幹にくっついて実る奇妙な砲丸の木(南米ギアナ原産)などなど、アッと驚くような熱帯の植物の数々が。花々は一部ですが、珊瑚に似たコーラルブッシュ、フランスのナポレオン時代に使用された帽子に似た花をつけるナポレオンズハットなど数々の驚きの植物が目に入ります。
直径20㎝近くある砲丸の木の実。かなり大きな花をつけていることも

直径3㎝~のナポレオンズハット
ハワイ&ポリネシアの植物も
実は多種多様に揃うちなみに今回、私が植物園を隅から隅まで歩いて驚いたのは、ハワイの原産植物、そしてハワイアンの祖先がタヒチやマルケサス諸島から大昔に持ちこんだポリネシア伝統植物も実に多いことでした。
すでにふれたように、ハワイ原産植物はリリウオカラニ植物園、フォスター植物園は世界の熱帯植物をコレクション…と公けに区分されているためでしょうか。資料でもウェブサイトでも強調されていないものの、こちらにもハワイ&ポリネシアならではの植物がたくさん! サトウキビやタロイモ、パンノキなどももちろんあるうえ、黄色のオヒアレフアや、伝説の残るナウパカの花、レイの素材として愛されるシダ、ナーパラパライなども見つけることができました。

レフア・マモ(黄色いオヒアレフア)
特に、ハワイでも滅多に見られない「山のナウパカ」を見つけたのは驚きでした。半円型をしたナウパカの花には海と山に離れて死んだ恋人たちの化身との伝説があり、海に咲く類のナウパカは始終見かけます。ですが山で進化した「山のナウパカ」を見たのは、私にとって生涯2回目でした(1回目は、ビショップ博物館の庭で発見)。

山のナウパカ。白い「海のナウパカ」に比べごく珍しい
このフォスター植物園、入場料も$5と手頃なので、ダウンタウン&チャイナタウンの散策に合わせ、訪れてみるのも一興です。気温が上がる前の朝いちばんにこちらを訪れ、その後チャイナタウンでランチを楽しむというのは、いかがでしょうか? 入口にあるギフトショップにはキッチンタオルから傘まで植物にちなんだラインナップが揃い、ひと味変わったギフト探しが楽しめます。
さて、最後にここで嬉しいお知らせが一つ。5月12日、新刊が発売されることになりました! 題して「植物でめぐるハワイの神話―楽園の草花と木々に宿る45のおはなし」(イカロス出版)。表紙画像の用意はまだなのですが、すでにアマゾンにて予約注文が始まっております。30余年にわたるハワイ生活のなかで集めてきた45の神話・伝説、そして10本のコラムを掲載しています(そんなことで最近、植物園に私の関心が向いていたのカモしれません)。
前回&今回のコラムに登場したオヒアレフアやパンノキ、コア、ナウパカの神話・伝説も読んでいただけますので、ぜひぜひ、ご覧ください! どうぞよろしくお願いいたします。
最新刊「ハワイカルチャーさんぽ」は2024年に発売。「やさしくひも解くハワイ神話」は現在4刷目、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景」は2刷目が売り切れ間近となっています。
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Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景
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やさしくひも解くハワイ神話
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森出じゅん/JUN MORIDE プロフィール
- オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動するかたわら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。2012年からハワイ州観光局の文化啓蒙プログラム「アロハプログラム」講師。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニーマガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景ーハワイの人々が愛する100の神話」(パイインターナショナル刊)がある。
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