番外編! ハワイ州歌とハワイ王国の密な関係

番外編! ハワイ州歌とハワイ王国の密な関係

ハワイの歴史・文化に詳しいライター・森出じゅんさんのコラム第41回。今回は番外編第3弾! ハワイ州歌「ハワイ・ポノイ」についてのお話です。

公開日:2024.09.30

森出じゅんのハワイ歴史&神話散歩

ハワイ州歌「ハワイ・ポノイ」は
ハワイ王国の忘れ形見

ALOHA! ホノルル在住の森出じゅんです。

ハワイ文化に焦点を当て、ちょっと意外なハワイの横顔を紹介するこのコラム。ふだんは史跡や神話の舞台など「場所」を切り口にお届けしていますが、今回は番外編第3弾! ハワイ州歌「ハワイ・ポノイ」についてお話ししましょう。

以前、第21回「番外編 ハワイ州旗の誕生秘話」で、ハワイ州旗はハワイ王国時代の国旗をそっくり引き継いだものであることに触れましたが…。実はハワイ州歌も全く同じ。ハワイ王国の国歌をそのまま使っています。作者は、王国7代目君主のカラカウア王。しかもそれは、ハワイ王国3つ目の国歌なのでした。

 

「ハワイ・ポノイ」の作詞者、カラカウア王(Photo courtesy of Hawaii State Archives)

 

ハワイ州歌「ハワイ・ポノイ」という題名を直訳すると、「ハワイの真の国民」。カラカウア王が君主に就任した1874年に作詞し、そこにロイヤルハワイアンバンドの指揮者だったヘンリー・バーガーが曲をつけたものです。このヘンリー・バーガーはドイツ出身。カメハメハ5世時代の1870年、王国付きの軍楽隊だったロイヤルハワイアンバンドのテコ入れのため、5世の要請に基づいてハワイ入りした人でした。

 

ロイヤルハワイアンバンド。手前中央は指揮者のヘンリー・バーガー(Photo courtesy of Hawaii State Archives)

 

実をいえばカラカウア王は当初、この歌を国歌として書いたわけではありませんでした。元々の題名は「カメハメハ1世賛歌」。なるほどその内容は王族への敬意を喚起するような内容で、「ハワイの国民よ、首長に忠実にあれ。国家の父カメハメハは戦いで槍を手に護りを貫いた」といった、カメハメハ大王を称えるフレーズが出てきます。それがカラカウア王の就任以降、「ハワイ・ポノイ」と改名されて正式に王国国歌となり、ロイヤルハワイアンバンドが盛んに演奏することとなりました。

 

王国時代の公宮、イオラニ宮殿に展示されている「カメハメハ1世賛歌」の楽譜

 

そして「ハワイ・ポノイ」は1893年、白人勢力によるクーデターで王国が倒れるとそのまま(クーデター派が建国した)ハワイ共和国の国歌に。次いでハワイ準州時代を経てハワイが1959年にアメリカの州となると今度は州歌として採用され、今に至っています。

 

「ハワイ・ポノイ」以前に
存在した2つの国歌とは?

先にハワイ・ポノイが「王国3つ目の国歌だった」と書きました。少し複雑ですが、その経緯について説明すると…。ハワイ初の国歌が成立したのは、カメハメハ4世時代の1862年。それまでハワイ王国にオリジナルの国歌はなく、イギリス国歌「ゴッド・セイブ・ザ・キング」で代用されていたそうです。このあたりはイギリスのユニオンジャックがハワイ国旗として使われていたのと、同様ですね(番外編「ハワイ州旗の誕生秘話」参照)。

それを正そうと、某ハワイ語新聞社がコンテスト形式で新たな国歌を募集し、見事選ばれたのがルナリロ王子(後の6代目ハワイ君主)の「エ・オラ・カ・モイ・ケ・アクア」でした。とはいえそれは単に、「ゴッド・セイブ・ザ・キング」を忠実にハワイ語に訳しただけの作品なのですが…。ともあれ、これがハワイ国歌第1号となります。

 

1つめの国歌の作者、ルナリロ王(Photo courtesy of Hawaii State Archives)

 

こちらがしばらく国歌として使われていた一方で、「他国の国歌をベースにするのではなく、もっと本物の、オリジナルの国歌を!」ともっともなことを考えたのが、カメハメハ4世の跡を継いだカメハメハ5世。優れた音楽家として知られていたリリウオカラニ王女(カラカウア王の妹。後の8代目ハワイ君主)に依頼し、1868年、ハワイ初のオリジナル国歌が誕生しました。その題名もずばり、「ヘ・メレ・ラフイ・ハワイ(ハワイ国家の歌)」。

 

2つ目の国歌の作者、リリウオカラニ女王(Photo courtesy of Hawaii State Archives)

 

ちなみにリリウオカラニの自伝によると、新国歌はわずか1週間で完成したそう。その後、カメハメハ5世の列席のもと、自らが聖歌隊の指揮者を務めていたカワイアハオチャーチ(ホノルル・ダウンタウン。第27回「海からせり上がった教会、カワイアハオチャーチ」参照)にてお披露目されたとか。カメハメハ5世は曲を絶賛し、正式に国歌として定めたということです。こちらがハワイ国歌第2号ですね。

王族も通ったダウンタウンのカワイアハオチャーチ

 

ところが…。カラカウア王が就任すると、妹作の国歌第2号に代わり自分が書いた「ハワイ・ポノイ」を新たな国歌に制定したのは、前述の通り。リリウオカラニ女王に限らずカラカウア王もいくつも曲を書いていますので、兄妹といえども、うっすらとした競争心が働いた…のかもしれませんね。

以上のような少しこみ入った経緯のもと、王子、王女時代のルナリロ王&リリウオカラニ女王、そしてカラカウア王と、3人の君主が関わった3つの王国国歌。最後の国歌「ハワイ・ポノイ」は州歌として今でもイベントやセレモニーなどでしばしば演奏されるので、皆さんもきっと耳にしたことがあるのではないでしょうか。

今も引き続き活動中のロイヤルハワイアンバンド。毎週金曜の12時からはイオラニ宮殿庭で無料コンサートがある

 

さまざまな意味でハワイ王国にどっぷりとリンクした「ハワイ・ポノイ」、もしハワイで聞くチャンスがあったなら。カラカウア王をはじめ、王国時代の栄光を感じとりながら聞いていただきたいと思います。

一方、女性らしさ溢れる賛美歌調の優しいトーン、しかもメロディアスな「ヘ・メレ・ラフイ・ハワイ」は、私も教会などで聞いたことが…。リリウオカラニが生涯で作った150曲近くのなかでも秀作の1つとみなされていますので、こちらも皆さんの耳に届く機会がありますように!

 


 

なおこの記事で触れたカイルアの逸話のほとんどは最新刊「史跡と神話の舞台をホロホロ! ハワイカルチャーさんぽ」(地球の歩き方シリーズ)でも取り上げています。ぜひお手に取ってご覧ください。以下の神話関連書籍2冊も、どうぞよろしくお願いいたします。

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森出じゅん/JUN MORIDE プロフィール

オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動するかたわら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。2012年からハワイ州観光局の文化啓蒙プログラム「アロハプログラム」講師。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニーマガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景ーハワイの人々が愛する100の神話」(パイインターナショナル刊)がある。

☆ブログ「森出じゅんのハワイ生活」>>

☆ハワイ州観光局アロハプログラム>>

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