女王の別荘地跡に広がる リリウオカラニ植物園
ハワイの歴史・文化に詳しいライター・森出じゅんさんのコラム第48回。今回はホノルル・ヌウアヌ渓谷のリリウオカラニ植物園をご紹介します!
更新日:2025.12.29
歴史と神話に彩られた
知る人ぞ知る植物園Aloha! ホノルル在住の森出じゅんです。
ハワイ文化に焦点を当て、ちょっと意外なハワイの横顔を紹介するこのコラム、いよいよ今年も最後のコラムとなりました。今回はホノルル・ヌウアヌ渓谷のリリウオカラニ植物園をご紹介します! ハワイ州庁やホノルル市庁も置かれるダウンタウンから徒歩圏にありながら、意外に知られていない植物園ですが、実は自然を楽しむスポットであるとともに歴史と神話に彩られた場所でもあります。
一帯はかつてカメハメハ王家の土地で、19世紀半ばにはカメハメハ3世の王妃カラマが所有していました。のちに王国最後の君主であるリリウオカラニ女王が買い取り、別荘に。死去する数年前にホノルル市に寄贈し、今ではハワイ原産の植物が見られる植物園として無料で市民に開放されています。


同植物園は花壇や温室があるような通常の植物園とは印象が異なり、ヌウアヌ渓谷の一部を切り取ったような、野趣あふれる雰囲気が魅力。植物を見て歩くというより、山奥に入らずして渓谷の自然を体感できる空間といえるでしょう。
名高い神話に登場する
魔法のパンノキもかつてここにこの植物園を特徴づけているのが、敷地を貫くヌウアヌ川。後方のコオラウ山脈から流れる川の一部には、小さなワイカハルル滝もあります。その滝壺は昔、王族お気に入りの水浴び場だったとか。以前、滝壺のすぐ横にはリリウオカラニのコテージがあり、まさにリリウオカラニが涼やかな渓谷の気候や渓流を楽しんだのがこの場所でした。


今では水質が変わり滝壺は遊泳禁止
滝壺周辺はまた、有名な神話の舞台でもあります。神話の主人公は大地の女神パパと、その夫で空の神ワケア。2人が神の身分を隠し、人間に身をやつして暮らしていた大昔のことです。新参者を嫌った土地の酋長の手下に追われ、2人はワイカハルル滝の近くで絶体絶命の危機に陥りました。そのピンチを救ったのが、滝壺の少し上に生えていた不思議なパンノキの巨木。幹がぽっかり口を開け、2人が飛びこむと再び閉じて2人を匿ったのです。
酋長の手下はパンノキを倒そうとしたものの、木に斧を振りおろすたび木片が飛び散り、次々死んでしまいました。その間に2人は幹の裏側から脱出し、まんまと逃げおおせたということです。
イギリス海軍と
パンノキの因縁とは?ここで話が横道にそれますが、パンノキの実は成長が速く、しかも1本の木が大きな実を大量につけることで知られます。栄養価も高く、神の化身である1本のパンノキが村を飢餓から救った神話もあるほど。そのため18世紀に西インド諸島を植民地化していたイギリスが、現地の人々の食料として目をつけたのがパンノキでした。

昔のハワイでタロイモ、サツマイモに次ぐ第3の主食だったパンノキ(他所で撮影したもの)

1つ1つの実が子供の頭ほどのサイズ(他所で撮影したもの)
イギリス海軍の船、バウンティ号がパンノキの実をタヒチから西インド諸島に運搬することになりましたが、一部の乗組員が叛乱。船を奪い、誘拐したタヒチ人らとともに無人島のピトケアン島に住み着いた経緯は「バウンティ号の叛乱」として語り継がれ、何度も映画化されています。
そしてハワイ神話によれば、パンノキがこのように実り豊かで有難い木になったのは、前述のようにワイカハルル滝近くのパンノキに神々が宿ったためとか。その出来事をきっかけに神通力が宿り、実をたわたにつけるようになったというからユニークですね。
今ではくだんのパンノキもリリウオカラニ女王の別荘も除去され、残念ながら植物園にはパンノキが育っていない一方で、ハワイ固有のコアの木やオヒアレフアの若木を見つけました。いつか再びこの土地で、パンノキが育つのをぜひ見たい! そう願うのは、私だけではないでしょう。

ウクレレや調度品も作られるコアは三か月型の葉が特徴

さまざまな伝説も残るオヒアレフア
なお最後に注意事項を…。植物園は終日、すぐそばを高速道路が走るとは思えないほどの静寂に包まれています。広い敷地に人影がない時も多いので、早朝や夕刻の訪問は避け、なるべくグループで訪問するようにしましょう。
ちなみにリリウオカラニ植物園の高速道路を挟んだ海側には、もう1つ、フォスター植物園があります。こちらも歴史深い植物園なので、またの機会にお伝えできればと思います。来年も、このコラムを引き続きよろしくお願いいたします!
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森出じゅん/JUN MORIDE プロフィール
- オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動するかたわら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。2012年からハワイ州観光局の文化啓蒙プログラム「アロハプログラム」講師。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニーマガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景ーハワイの人々が愛する100の神話」(パイインターナショナル刊)がある。
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