ハワイ州紋章に秘められたハワイの悲しい過去

ハワイ州紋章に秘められたハワイの悲しい過去

ハワイの歴史・文化に詳しいライター・森出じゅんさんのコラム第25回。今回は、ハワイ州紋章に秘められたハワイの悲しい過去に関するお話です。

公開日:2021.12.29

森出じゅんのハワイ歴史&神話散歩

ハワイ州紋章と
ハワイ王国紋章の関係

ALOHA! ホノルル在住の森出じゅんです。

ハワイ文化に焦点を当て、ちょっと意外なハワイの横顔を紹介するこのコラム。今回は以前、好評をいただいた番外編(「ハワイ州旗の誕生秘話&意味合い」)の第2弾! ハワイ州の紋章についてお話しします。空港やホノルル・ダウンタウン周辺で、観光客の皆さんにもきっとお馴染みであろうハワイ州紋章の、意外な背景についてご紹介しましょう。

…と、そのためには、ハワイ王国時代に遡り、王国の紋章から話を始めなければなりません。というのも州紋章は王国の紋章を下地に、ハワイ共和国時代に加えられたアレンジをそのまま残す形で、現代に繋がるものだからです。以下、説明していきましょう。

イオラニ宮殿に飾られているハワイ王国の紋章

まず、王国の紋章が作られたのは、カメハメハ3世の治世だった1845年。デザインしたのは王族の1人で、カメハメハ3世の秘書を務めていたティモシー・ハアリリオでした。カメハメハ3世時代にはハワイ初の憲法なども発布されていますので、国としての体裁を整えていた時代だったと推測します。

ハアリリオ氏は、なかなか優れたアイディアの持ち主だったよう。王国の紋章は見目麗しいだけでなく、ハワイの文化や歴史を象徴するさまざまな要素が盛りこまれています。たとえば紋章の左右に立つ2人の人物は、カメハメハ大王の双子の叔父。ハワイ島コハラの大酋長だったカメエイアモクとカマナワは、カメハメハの相談役でした。

イオラニ宮殿ラナイの天井にも、王国の紋章が…

紋章全体の枠になっているのは、広げた状態の羽毛のケープです。羽毛のケープは古来、王族だけが身に着けることができ、やはり王族の象徴。加えて2人の間の王冠の下にも、詳細なデザインが施されています。白と青、赤の8本のストライプは、ハワイの主要8島を表わしたもの。これはハワイ州旗にも、同じ理由であしらわれていますね。

またストライプの対角にある白い丸がついたスティックは、王族の権威の印、プロウロウ。プロウロウはかつて王族の住居前や神殿前など、王族に関わりの深い場所や聖地に置かれていました。立ち入り禁止を示す印でもあり、英語ではタブー・スティックと呼ばれます。

それらの中央に配されているのは、王族の乗るカヌーに立てられた旗プエラと、カヌーのパドル。かなり細かい部分まで工夫が施された王国紋章は、芸術的ですらあります。実際、王国紋章をモチーフにしたジュエリーなども、ハワイでは見かけます。

王国紋章をデザインしたゴールドのペンダント

さらに紋章の下にあるフレーズ、Ua Mau Ke Ea O Ka Aina I Ka Ponoは、ハワイ王国のモットー。「土地の統治権は、正義によって守られる」というカメハメハ3世の言葉が王国のモットーとなった経緯については、前回をどうぞ参照ください。

 

実は似て非なる?
王国紋章と州の紋章

ここでやっと、話がハワイ州紋章に戻ります。王国紋章とハワイ州紋章と似ているのは、前述の通り。以下のように王国の紋章と見比べていただくとわかりやすいのですが、王国紋章をアメリカ的にアレンジしたのが、ハワイ州の紋章なのです。

ハワイ州の紋章

ハワイ王国の紋章

具体的には、カメハメハ大王の双子の伯父が、州紋章ではカメハメハ大王と自由の女神に様変わり。2人の間の細かいデザインも、絶妙に変えられています。まず、王冠があった位置には太陽が。そして8本のストライプとプロウロウの中央にあった旗印&カヌーのパドルは消え、いかにもアメリカらしい星のマークが入っています。さらに下部には不死鳥も。

こうしてハワイ王国の紋章とハワイ州の紋章を比べると、パッと見た印象こそ似通っていますが、全く内容が異なることがわかりますね。まさにハワイ王国がアメリカに乗っ取られた…いえ、併合された複雑なその歴史が、顕著に現れているような気がします。

州紋章は州の建物や公用車(写真)など、あちこちで見られる

…それもそのはず。州紋章は王国紋章を下地にしていると言いましたが、もっと正確に言いますと、(王国の紋章を下地に作られた)ハワイ共和国の紋章を踏襲しています。ハワイ王国が白人勢力によって倒された1893年、ハワイは共和国となりました。その際、王国紋章に前述のようなアレンジを加えて共和国の紋章が作られ、準州時代を経てそのまま引き継がれたのが、州紋章という流れになります。ちょっとややこしいですが…。

ちなみにハワイ共和国の創始者こそは、ハワイ王国を倒した「白人勢力」。その多くはアメリカ人宣教師の息子や、ビジネスマンでした。王国の紋章をアメリカ的に塗り変えるのに、何の躊躇がなかったのも当然ですよね。

ハワイ王国最後の女王リリウオカラニとハワイ共和国の閣僚たち。
向かって左はドール共和国大統領
Photo Courtesy of Hawaii State Archives

それなのに、州紋章の一番下には「土地の統治権は、正義によって守られる」という王国時代のモットーがそのまま…。そのあたり、ちょっと理解に苦しむのは、私だけではないと思います。

以上のように、実はハワイの複雑な過去が秘められたハワイ州紋章。ハワイ王国の紋章ともども、ホノルルの歴史的な街、ダウンタウンを歩けば、あちこちで見ることができます。次回のハワイでは、ぜひ探してみてくださいね。

森出じゅん/JUN MORIDE プロフィール

オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動するかたわら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。2012年からハワイ州観光局の文化啓蒙プログラム「アロハプログラム」講師。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニーマガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景ーハワイの人々が愛する100の神話」(パイインターナショナル刊)がある。

☆ブログ「森出じゅんのハワイ生活」>>

☆ハワイ州観光局アロハプログラム>>

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