ハワイ / パールハーバー - 真珠湾と鮫の女神の過去

ハワイ / パールハーバー - 真珠湾と鮫の女神の過去

ハワイの歴史・文化に詳しいライター・森出じゅんさんのコラム第2回は、真珠湾を守る鮫の女神のお話。神の怒り?ただの偶然?あなたはどちらだと思いますか?

公開日:2018.03.16

更新日:2018.03.26

森出じゅんのハワイ歴史&神話散歩

真珠湾の真珠と
カメハメハ大王の関係は?

アロハ! ホノルル在住の森出じゅんです。

ハワイ文化に焦点を当て、観光チックではない、ちょっと意外なハワイの横顔を紹介するこのコラム。記念すべき第2回目は、パールハーバー、つまり真珠湾をテーマにお届けします。

「え? ハワイ文化のコラムなのに、なぜよりによって真珠湾?」と、フと顔を曇らせた方もいらっしゃるかもしれませんね。…たしかに日本人にとって真珠湾といえば、不幸な日米開戦の地という印象が強いでしょうか?

ですがこのエリアは真珠湾攻撃の遥か昔から、ハワイアンの文化が育まれてきた歴史的なエリアなのです。ハワイ語でプウロア(長い丘)と呼ばれ、海辺には湿地帯と王族のための養魚池が広がっていました。

真珠湾と呼ばれ出したのは、19世紀に入ってからのこと。ズバリ、ここで真珠貝が育っていたからです! 真珠貝は食用として珍重されたのに加え、釣り針や小さなナイフ作りに使われました。さらにティキ像(ハワイ語でキイ。ティキはじつはマオリ語です)の目玉の部分を真珠貝で作ったりもしましたが、たまに見つかる美しい真珠は見向きもされなかったそうです。もったいない話ですネ。

ところがハワイ王国時代に西洋人が入って来ると、真珠の価値が初めてハワイで認識されるようになりました。そこでカメハメハ大王は「王族以外は誰も収穫してはならない」という御触れを出し、真珠貝を独占売買。1812年、あるアメリカ人がひと粒の真珠を$4で買ったという記録も残っています。200年前の$4と言ったら、ものすごい価値ですよね。

ちなみに真珠湾で採れる真珠については、19世紀のハワイアン歴史家、サミュエル・カマカウが以下のように詳しく語っています。

「真珠貝はエバ地方の海でたくさん見つかり、その新鮮な肉の中には真珠と呼ばれる宝石がある。真珠は魚の目玉のように白く輝き、虹の中の赤や黄、もしくは暗い色、時にはピンクがかった白もあり、大変な価値があった」

※写真はイメージです

この記述によると、ハワイで採れたのは恐らく黒真珠だったのではないでしょうか(タヒチ産の黒真珠もグレーや黒だけでなく、色とりどりのものがあります)。真珠の価値が見出されたことがきっかけで、19世紀以降、この海が真珠湾と呼ばれるようになったのでした。

ですが残念なことに、真珠湾にはもう、真珠貝は生息していません。20世紀に入ると周辺の農地から流入した泥が海底に沈殿し、真珠貝が絶滅してしまったのです。なんて悲しいのでしょう! ハワイ産の黒真珠、見てみたかったものです。

 

真珠湾の守り神を
怒らせたアメリカ海軍

…と、つい先に大好きな真珠絡みの話をしてしまいましたが、一帯の海は、ハワイアンにとって大変な聖地でもありました。古来、この湾は鮫の女神カアフパハウによって護られていると信じられてきたのです。鮫の女神は真珠湾の海中洞窟に住んでいるとされていたのですが、1909年のこと。よりによって女神の住処である洞窟の真上にアメリカ海軍が造船所を建てるという、ハワイアンを激怒させる出来事がありました。

戦艦アリゾナから引き揚げられた錨

もちろん土地のハワイアンは口をきわめて反対しましたが、アメリカ海軍は聞く耳を持たず、工事がスタート。ところが。やはりと言いますか、セメントが機械からうまく流れない、建設現場から海水を排出できないなどの事故が続発したそうです。

海軍はそれでも「事故は地震のため」などと言って、鮫の女神に注意を向けることはありませんでした。造船所で大事故が起こるまでは…。そうなのです! 工事が遅れに遅れ、当初の倍以上に膨れ上がった予算(約4億円)をかけ、造船所が完成したのが1913年。担当者がホッとしたのも束の間、爆発事故が起き、やっと完成した造船所が全壊してしまったのです。

ここにきてやっとハワイアンの言葉を思い出したのでしょう。1年後に造船所再建が始まる際には、さすがの海軍も湾の守り神の怒りを鎮める儀式を行うことにしました。ハワイアンのカフナ(神官)が呼ばれ、鮫の女神のために祈りが捧げられたのです。


アリゾナ記念館を離れると、昔ながらの真珠湾の姿が残るこんな静かな海辺も

こうして造船所は1919年に完成したのですが…。それがメデタシメデタシのハッピーエンドではなかったのは、みなさんご存知ですよね。造船所完成から22年後の1941年に、あの真珠湾攻撃が起こったわけです。

もちろん、そこに鮫の女神との因果関係があったかどうかは、神のみぞ知る…の世界ではあります。でも土地のハワイアンの主張によれば、アメリカ海軍は真珠湾を守る鮫の女神を著しく怒らせてしまったことになります。

みなさんはこれを、「そんなバカな」「ただの偶然だ」と嗤うでしょうか。それとも? 私はハワイアンの意見に一票! 真珠湾での一連の出来事、とても偶然とは思えません。因果応報とまで言ってしまってはいけないでしょうが…。


鮫の女神が守っているとされる真珠湾

森出じゅん/JUN MORIDE プロフィール

オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動するかたわら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。2012年からハワイ州観光局の文化啓蒙プログラム「アロハプログラム」講師。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニーマガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景ーハワイの人々が愛する100の神話」(パイインターナショナル刊)がある。

☆ブログ「森出じゅんのハワイ生活」>>

☆ハワイ州観光局アロハプログラム>>

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